授乳ガイド

授乳は本能的な行為である一方、ママと赤ちゃんが一緒に身につけていくスキルでもあります。 うまくいかない日があっても、少しずつ整っていくので安心してください。

1. 授乳のメリット

AAP(米国小児科学会)とWHO(世界保健機関)は、生後6か月までの完全母乳育児、 その後は補完食(離乳食)を併用しながら2歳以降までの継続授乳を推奨しています。

赤ちゃんにとってのメリット

  • 月齢や体調に合わせて変化する、理想的な栄養を受け取れる
  • 抗体成分により感染症のリスクを下げやすい
  • SIDS、アレルギー、肥満、糖代謝トラブルのリスク低下に関連
  • 親子の愛着形成と情緒の安定につながる

ママにとってのメリット

  • 産後の子宮収縮を助ける
  • 追加のエネルギー消費があり、産後の体重管理を後押しする
  • 乳がん・卵巣がんリスク低下と関連
  • 準備が少なく、経済的な負担を抑えやすい

2. 深くくわえさせる(良いラッチ)の基本

正しいラッチは、授乳を楽に続けるための土台です。次のサインを確認しましょう。

  • 口が大きく開いている: あくびのようにしっかり開口する
  • 深くくわえている: 乳頭だけでなく乳輪の大部分まで口に入る
  • 唇が外向き: 上下の唇が魚の口のように外反している
  • あごが乳房に触れている: あごがしっかり密着している
  • 鼻の通りが確保される: 鼻が強く押しつけられず呼吸できる
  • 嚥下音が聞こえる: 飲み込むリズム音が確認できる

痛みがある場合: 赤ちゃんの口角に小指をそっと入れて吸着を外し、 もう一度ラッチし直します。痛みは「調整が必要」というサインです。

3. 代表的な授乳姿勢

クレードル抱き

定番の姿勢です。赤ちゃんをお腹同士が向き合うように抱き、授乳側と同じ腕の肘内で頭を支えます。

クロスクレードル抱き

クレードル抱きに似ていますが、授乳側と反対の手で頭を支える方法です。 新生児期に深いラッチを作りやすく、細かな角度調整がしやすい姿勢です。

フットボール抱き(クラッチ抱き)

赤ちゃんを脇の下に抱え、足を背中側へ向ける姿勢です。 帝王切開後や乳房が大きめの方でも取り入れやすい方法です。

横向き授乳(サイドライイング)

ママと赤ちゃんが横向きで向き合って授乳します。 夜間授乳や産後回復期に、体を休めながら授乳しやすい姿勢です。

レイドバック授乳(生物学的授乳)

ママが楽に寄りかかり、赤ちゃんを胸の上にうつ伏せでのせる姿勢です。 赤ちゃんの探索反射を活かしやすく、肌と肌のふれあいも深まります。

4. 授乳の回数と時間の目安

  • 新生児期: 1日8〜12回(約2〜3時間ごと)が目安
  • 赤ちゃん主導: 空腹サインが出たタイミングで授乳する
  • 授乳時間: 片側10〜20分程度。まず片側をしっかり飲ませてから反対側へ
  • 夜間授乳: 乳量維持に重要。新生児の夜間授乳は自然なこと

見逃したくない空腹サイン

  • 口を探すように顔を向ける(ルーティング)
  • 手やこぶしを吸う
  • 口をもぐもぐさせる、唇を鳴らす
  • ぐずる(激しく泣く前の段階で授乳できるとスムーズ)

5. 母乳が足りているサイン

母乳は量を直接測りにくいですが、次の指標がそろっていれば十分に飲めている可能性が高いです。

  • 排尿: 産後4日目以降は1日6回以上の濡れたおむつ
  • 便: 生後1か月ごろまで黄色でつぶつぶした便が1日3〜4回程度
  • 体重: 生後2週ごろに出生体重へ戻り、その後は安定して増える
  • 授乳後の様子: 飲み終わった後に落ち着いた表情を見せる
  • 乳房の感覚: 授乳前よりやわらかくなる

6. よくある悩みと対処法

乳頭の痛み

  • 多くはラッチの浅さが原因。姿勢とくわえ方を見直す
  • 授乳後、しぼった母乳を乳頭に塗って保護する
  • ラノリンクリームやハイドロゲルパッドを活用する
  • 授乳後は乳頭を乾かし、蒸れを防ぐ

乳房の張り(うっ積)

  • 乳房が硬く熱っぽく、痛みを伴うことがある
  • 授乳回数を増やすか搾乳して圧を逃がす
  • 授乳間は冷罨法で炎症感を和らげる
  • 授乳前に温めると母乳が流れやすくなる

乳管のつまり

  • 乳房の一部にしこり・圧痛を感じる
  • 授乳中に乳頭方向へやさしくマッサージする
  • 授乳前に温罨法を取り入れる
  • 毎回できるだけしっかり排乳する

乳腺炎

  • 乳房の赤み・熱感に加え、発熱や倦怠感を伴うことがある
  • 授乳継続は回復に役立つことが多い
  • 早めに医療機関を受診し、必要時は抗菌薬治療を受ける

母乳不足かも…と感じるとき

  • 実際の不足ではなく「不足感」であることも多い
  • 授乳間隔を詰めて頻回授乳にする
  • 深いラッチができているかを再確認する
  • 水分・食事・休息を意識する
  • 不安が強い場合はラクテーション専門職へ相談する

7. 相談・受診のタイミング

次のような場合は、IBCLC(国際認定ラクテーションコンサルタント)や医療者へ相談しましょう。

  • 授乳中または授乳後の痛みが持続する
  • 乳頭に亀裂・出血・水ぶくれがある
  • 赤ちゃんの体重増加が乏しい
  • おしっこ・うんちの回数が月齢目安より少ない
  • 母乳が足りない感覚が強く続く
  • 赤ちゃんがうまくくわえられない

多くの産科施設・小児科で授乳相談が可能です。地域の母乳外来や助産師外来も活用してください。

参考: American Academy of Pediatrics(AAP)、 World Health Organization(WHO)、La Leche League International